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短編

「おはよ☆」

 朝、目を覚ますと、ルシオの目の前に見知った顔があった。

「……何添い寝してるんですか、エルザさん」
 まだ眠たい目をこすり、ルシオはベッドに潜り込んできていたエルザに声をかけた。

「ドア、また鍵かけてなかったでしょ。不用心だからちゃんと気をつけなさいよ」

 ルシオはしまったな、と玄関のドアを見つめて、小さくため息をついた。
 ルシオがこの場所で一人で住み始めて半年近くになるが、いまだに鍵をかけ忘れることが多々あった。
 そのたびにエルザは部屋に入り込み、今日のようにベッドに潜り込んでくるのだ。
 ルシオも最初の頃は驚いていたが、さすがに最近は慣れてきた。

「あ、私がいつ来てもいいように鍵を開けてくれてるのね!」
「そんなわけないでしょう」
 嬉しそうに言うエルザの言葉を、即座に否定した。

 ルシオはベッドから出て、床に足をつけようとしたその時、何かに足を取られてその場に倒れ込んだ。
 ぶつけた鼻をさすりながら床を見てみると、本が落ちていた。
 一冊や二冊ではない、部屋中に本が散乱している。

「ちょっとくらい自分でも片付けなさいよ、ここまで来るのも大変だったんだから!」

 頬杖をついたエルザが、ベッドの上からルシオを見下ろして言った。
 確かに、数日片付けをしていなかったせいで、部屋は随分荒れている。
 流しの中の食器は、いつの分から残っていただろうか。

「もう、ワタシが片付けしといてあげるから、身支度してお茶いれてよ」
「ありがとうございます。いつもすみません……」

 これも日常的な流れだった。
 エルザが部屋を片付けてくれている間に、ルシオは顔を洗い、手近にあった、おそらくきれいだと思う服に袖を通す。
 身支度ができたら、片付けをしてくれているエルザを横目に紅茶を二人分準備する。
 紅茶を入れるための道具は、荒れた部屋の中で、唯一手入れがきちんとされていた。
 慣れた手つきで、ケトルの水に魔術で熱を通し、茶葉の入ったティーポットに注ぎ、それを蒸らす。
 その頃にはもう部屋はあらかた片付き、エルザは持ってきた朝食をテーブルに並べていた。

「はあー……やっぱりルシオの入れてくれた紅茶、美味しいわぁ」

 幸せそうに、エルザは紅茶を味わう。

「そう言ってもらえると、嬉しいです」
 ルシオは少し照れながら言った。

 最初は自分の納得のいく味を追求していただけだったが、こうして誰かに喜んでもらえることは、やはり嬉しいものだ。

「……ルシオ、よく笑うようになったわね」
「え?」

 エルザはバナナマフィンを食べていたルシオをまじまじと見つめ、呟いた。

「そう、ですか?」
 きょとん、としているルシオに、うんうん、とエルザはうなずいた。

「だって、城に来た頃なんて、ずっと下向いてて、言葉も少なかったじゃない」

 そう言われれば、確かに変わったかもしれない。
 ルシオは食べかけのマフィンをに視線を落とした。
 ミストールに来る前、セルネーレにいた頃は、誰とも視線を合わせないように下を向いて、できる限り自分の存在を消すように過ごしていた。それが、正しい事だと思っていた。

 笑う事なんて、どれくらい忘れていただろう。

「……エルザさんや、皆さんのおかげです」

 小さな声で、ルシオは言った。
「皆さんがいてくれたから、今僕は笑えているんです。本当に、ありがとうございます」

 顔を上げ、エルザに向かって笑顔を見せた。

「……もーーー!あんた良い子すぎ!チューしていい?」
「だ、ダメです!」

 抱きついてきたエルザを、ルシオは引き剥がそうと必死に抵抗する。
 キスされるなら、やはり男性より女性の方が良い。

「わ、もうこんな時間じゃないですか!エルザさん、急いでお城に行かないと」
「あら、ホント。ぼちぼち行かないとベルの奴がうるさいわね」
 ようやくエルザから解放され、ルシオはほっと息をついた。

 城から借りていた、読み終えた数冊の本と荷物を持ち、部屋を出る。
 鍵はちゃんとかけた?とエルザに確認されて、あわてて部屋の扉に鍵をかける。

 今日もいつもと同じ、少しだけ慌ただしかった朝。
 春の爽やかな青が、空には広がっていた。

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